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2008.03.11 『フォーカル・プレーン・シャッター』
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わきめもふらで急ぎ行く 君の行衛(ゆくえ)はいずこぞや
琴花酒(ことはなざけ)のあるものを
とどまりたまえ旅人よ




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二つのイチを行き来するようになってから
平均して週に1回はイチへ行っていることとなる。
月に2回だったこの特別な日は
次第に身近なものとなり、毎度の行事のように
淡々とした1週間の1ページにしかすぎなくなった。

今日たまたま喫煙場で隣り合わせになった同業者の方に
我々、隙間産業と呼ばれる中古小売業の今後の行く末を担い、
これからの抱負を尋ねられて、
この秋を境にこの仕事を去ろうと考えていた私は
少し返答に行き詰ってしまった。

次のイチまで少し時間がありそうだったので
相手を探るかのように、少しずつ今の本音を語ると
はじめ怪訝そうに耳を傾けていた顔つきが
少しずつ解けていったのが分かった。
話がすぼんでいくにつれ、なんとなく場の空気が下がってしまったので
私は意味もなく、はは。と笑ってみせた。
はは。ものすごく前向きなんですよ。
するとその人もそれに答えるかのように、はは。と笑ってくれた。
でも私はその笑顔の中に寂しげな陰りを見つけて、
人は自分を映す鏡だという
誰もが知っている当たり前の言葉に心を奪われる。

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日が暮れてしまう前に競りが終わり、
お父さんに迎えにきてもらう。
帰りの車の中で、流れる景色を眺めていた。
車内では、カントリーな曲が延々と流れていて
「ボブディランだ」とお父さんが教えてくれた。
人、車、マンション、信号機、
そのどれもが3月の夕陽にほんのり彩られて
まるで誰かの夢の中に居るような心地だった。

このまま、誰も知らない街へ
着のみ、着のままどこか遠くの世界へ

流れる景色を見てふとそんなことを思ってしまうのは何故だろう。
郵便ポスト、ガードレール、マンホールに、誰かの落書き
そんなありふれた日常的な風景と同化して
形ばかりの自分をいっそ失くしてしまいたい
そんな感情は
一体どこからやってきて、どこへ消えていくんだろうか。

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車から片手をだらしなく垂らした状態で
何枚かシャッターを切った。
写真のことなど何一つ知らないが、最近写真を撮るのが日課になっている。
もちろん切り取られたそれらが
下手の物好きでしかないのはよく分かっているし、
一体この行為が何を生み出すのかさえ全く見当がつかない。
けれどこの短絡的な作業は
真っさらなシーツに1本ずつ皺を作っていくかのように
様々なことを教えてくれる気がする。


シャッターボタンを押すことにも飽きてぼんやり風景を追いながら
気がつくと爪を噛んでいる自分が居た。
お父さんに、「お前、大丈夫か?」と聞かれ
その質問の意図も分からないまま、うん。と答える。

なぜか今にも流れ出してしまいそうな涙が、
体中に微熱を灯すかのようだ。

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取り立てて何一つ無理していることもないくせに
時々自分を襲うこの苛立たしい虚無感を、
未だ好きにはなれない。
それも自分なんだ、っていっそ感情に身を委ねたら
それを境に何もかもを失ってしまいそうな気がして
足がすくんでしまうんだ。
そしてそのままもう二度とどこへも行けない気がしてしまう。

でも
同じように、それ以上に苦しみや弱さを抱えながら
前を進んでゆく人たちが見える。
歓びを、幸せを信じて向き合う強い意志を感じる。
大丈夫、靴紐結んでる間に消えてしまったりしやしないから、
疲れてんなら少しだけ休めばいい。
うんと休んで、その代わりそれが結べたら
ダッシュで駆けだそう。

そして、こんな日もある、こんな日もあるさ。
そんな言葉を唱えてみよう。
そしたら明日はきっと晴れやかな気分で朝を迎える。
悩んでいた今日を嘘みたいにして笑ってる自分をたやすく想像できるだろ。
無論、そんなのあんただけじゃない。
そればかりか日々は誰の上にもちゃんと平等に周っている。

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そう、あんな日もある、あんな日もあるさ。
幼い子供が好きな言葉をおまじない代わりにするように
それを唱えては
どこにでもありそうなそんな歌詞にすら救いを見出せるよ。
思い切って大きな声で口に出してみたりしたら
なおいいだろう。
ちょっと周りに変人扱いされて、必死に誤解を解いてみるのも楽しそうだ。
明日はどんな日かな、
巡り続ける日々の行間に身を寄せ合いながら
同じようにして自らを乗り越えてゆく友の姿を描いては
ほんの少しの勇気をもらう。
by aoi-ozasa | 2008-03-11 21:25 | Daily life
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