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2008.10.25 『こうして書きたいと思うことは、』
冷えきった大地に新しい恵みをもたらすは風
頬をなぜるような柔らかな波紋が耳の横を通り過ぎる春。
生命の音を鮮やかに色付けるは光
雲の切れ間から差し込む陽光に原色のパレットが鮮やかに踊りだす夏。
出すことのなかった手紙、形に出来なかった言葉
感情たちが音色と共に溢れ出し、そして秋色の風景に融解されてゆく。
色を亡くした白の慟哭が光の速度で煌めいている
静かな眠りの中にいま確かな覚醒を覚える 冬。

四季の中を泳いでいる。
風があって、灯火があって、地球の走馬灯を見ているかのようなその音。


恋人からの誕生日プレゼントのフィナーレを飾るシガーロスの生演奏に、全身が歓喜をあげる。
演奏が始まって、ボーカル/ヨンシーの乳白色の水晶のような声、
そのクォーツのクオリティをさらに研磨するエネルギーのウェーブのような演奏。
四季のような色とりどりの風がホールに吹き込む。
最初の音に顔を見合わせて、ありがとうの代わりに、息だけの声で素晴らしい、と言った。
あらかじめ決められた座席に座っていたのだけど、音はどこまでもエコーして
心臓に届き、血液中を駆け巡る。
気がつくと全身が粟立って、この場所に違う存在で居ることを拒否しているようだった。



幼い頃、富士山に登った。
日本一とは言え世界圏から見たら、ベスト10にも及ばないその標高の真ん中より少し上あたりで、日の出を迎えた。
山頂を模倣したような頂に、何人かの登山者が取り残されたかのように同じ風景を拝む。
高山病にかかった私に付き添っていた母が、そんな人たちを見て
皆、仏様のような顔をしているね と言った。
私は意味がよく分らなくて返事することもなく、初めての景観に魅入った。
それとは少し違うかもしれないが、親子なんだな、こんなとき同じような表現をしてしまう。

シガーロスの興音に取り込まれた人たちは、私も同じくして世界を創った神様のような顔をしている。
それぞれが、それぞれの世界を目の前に作り出していた。
それぞれの思いを乗せて、それぞれの好みで着色して
いま誰もが皆、聖書を片手に創世主になれる。
疲れなど、忘れてしまえる。
醜さなど、失してしまえる。
惨めさなど、塗り替えてしまえる。
だってそれ以上の豊かさがいまここに、
それ以上の彩りが、その隔たりを超えて。





ライブの中で、雪に見立てた白い紙片がハラハラと降り注ぐ演出があった。
暗いホールの中、照らされたステージに本物同様、舞い降りる羽のように空中を散舞する。
演奏が終わった後も、喜びがとまらなかった。
Gobbledigookの手拍子のようなタクトが胸のうちをノックする。
このように生きることを望んでいたかのように
トントントンと、心臓の鼓動よりも早いそのリズム。
永遠に舞い続けるスノードームのような小さな韻律だけが残った。




豊かさとは、きっと実りの中にある。
贅沢な暮らしでも、豪勢な食卓や価値のある表現でも
何かを愛することも、誰かを許せることも
いずれ苦しさに身悶える運命が決まっていたとしても、
芽生えた瞬間の恋心を何よりも愛おしく感じられるように
思いが育ぐぐまれてゆく過程の中で、その実りを至福に思えることだ。
誰のものでもない、自分の感覚を、その人生を
何よりも誇らしく愛してゆける瞬間に与えられた最上の希望である。
と私は少し思う。
あなたの豊かさとは、あなただけのものだ。
そしてそれはいつか誰かと共有するためにある。

私はいつも
悩んでも、苦しんでも、頭空っぽになっても
こうして書きたいと思うことはいつも、このように自分を形成しているものの中の
自分が一番が美しいと思えるところで
時に、オーバーな表現に少し照れくさくなる。
でも俯いても足下を見ればほら、今日までの片燐が世界を輝かせている。
これからもその要素となる新しい出会いを迎え入れるかのように。


秋の夜長に四季折々の風が鳴く
私を愛してくださいと、
疲れた肌を優しく撫ぜた。
私は、ありがとうの代わりに素晴らしい、と声をあげる。


2008.10.24 SigurRos Live in Osaka.
by aoi-ozasa | 2008-10-25 11:29 | Daily life
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